名前を呼ばれ、顔を上げる。いつの間にかテーブルの向かいに座っていたホークスが、笑顔でこちらを向いている。
「何?」
「わぁ、釣れない」
彼がこの部屋にいることに、最近馴染み始めている。いることに違和感がない。でも、彼よりずっと待ち望んでいた新刊の続きを読む方が今の私には大事なのだから、仕方がない。口に出したら面倒くさそうだから、言わないけれど。
「ん」
彼の造形の整った口が、ピンクのポッキーを咥えた。突き出されたコーティングされてない方の素焼きのプレッツェル。あんまりにもあざとくて目に眩しい。カウンターのカレンダーを見て、ああ今日は11月11日なのかと理解した。
「雛鳥ちゃん達が見たら泣くよ」
かっこいいホークスが、こんなことしてるって知ったら。ファンはこんな可愛いホークスを知らないだろうな、と少しの優越感に胸がくすぐったくなる。
彼は器用に眉だけを動かしてみせた。くっと動いた顔が私を促している。晒された白い顎と覗く髭が、可愛らしさとのギャップに拍車をかけていた。
本を、閉じる。
栞を挟むことはしない。今日先を読むのは諦めよう。きっとこの鷹は諦めないと私は知っている。
腰を浮かせ、彼に近づく。ポッキーの中ほどに、開いた指を二本掛けて力を込めた。
「いただきます」
見事にバキバキに折れてテーブルに落ちたポッキーを拾って口に放り込む。イチゴ味のチョコレートと、フリーズドライの粒が舌の上で蕩けていく。
呆気に取られてるホークスの口に残っていた短い破片を指先で摘んで引き抜くと、少し溶けて濡れたそれをぱくりと食べた。あぁ、さっきよりも甘い気がする。
「あなたの、そーゆーとこ……」
口元を隠す手のひらの下は、どんな表情をしているんだろう。あざとくなりきれてないのが、たまらない。愛おしさから思わず年上の余裕が崩れて素の笑い声が漏れてしまう。
「そーゆーとこが、好き?」
転がっていた袋から一本取り出して、ホークスの口元に差し出す。少し悔しそうで、諦めたようで、こんな私も許してくれているのを知っている。
「ほんと、好いとーとですよ」
大人しくかぶりついた彼を見て、私も反対側に口をつけた。