2020 X’mas

 帰ってきて、ドアを後ろ手に閉めて、鍵を掛ける。
 真っ暗な空間、静まり返った寒い部屋。
 誰かいるなんて思ってもない。明かりが付いていて、彼氏が待ってるなんて夢見ちゃいない。イベント毎に彼に会えないのはデフォルトで、公安警察の恋人にはクリスマスなんて関係がないのだ。
 
 自分は今日、テレビを見ながらコンビニで買ってきたチキンと1カットだけのケーキを独りで楽しむ。
 
 はぁ、と溜息を吐いてはマフラーを解いた。彼がくれた、好きな色のカシミヤは柔らかくて暖かい。首元の温もりと一緒に感情も冷めて抜けていくようだった。
 鞄に入れていたスマホが振動して、メッセージアプリの受信を知らせる。
 
『もう帰ったか?』
『メリークリスマス』
 
 何とも短い二行だけのメッセージに、どんな顔をしてこれを打ったんだろうとおかしくなる。メリークリスマスなんて言うような柄じゃないだろう。
 
 いいよ、分かってるから。仕方ないもんね。くすくすと笑いを漏らしながら、画面を指で愛しげになぞる。
 そして、また1つ増えるメッセージに目を疑った。
 
『日付が変わる頃に行けそうだ』
 
「嘘!?」
 
 全く予想もしていなかったハプニングに、思わず大声で叫ぶ。
 
 待って、待って。
 部屋は彼の来ない時の仕様だし、この部屋には今ロクに何もない。プレゼントもケーキもチキンも、彼の為のものは何もないのだ。きっと無理やり時間を作って、ボロボロで彼はやって来るに違いないのに。
 
 解いたマフラーを巻き直し、慌てて帰ってきたばかりの部屋を出る。
 冷たくなった身体が、また暖かくなった気がした。

2020 X'mas