Which one do you like better?

「何読んでるんだ?」
 
 溢れ出る笑顔に、引き寄せられた。雑誌を捲っている彼女の手元を後ろから覗き込む。
 
「……猫?」
 
 スコティッシュフォールドにマンチカン。ふわふわで、愛くるしい仕草や表情を切り取ったスナップ。見たままを呟いた自分に、なまえは首肯で返す。
 
「あー。でも、降谷さんは興味ないでしょ?」
 
 ぱらりと頁を繰る指先がつと止まり、彼女は振り向いた。鼻と鼻が付いてしまう位に近い距離に、お互いをじっと見つめて笑ってしまう。二人の間に漏れる笑い声が頬を掠めていくのが、甘くも面映ゆい。
 
「まぁ、どちらかと言えば犬だな」
 
 的確に自分の嗜好を言い当てられて、自宅の愛犬を思い出す。元々犬は好きだったものの、ハロを飼い始めてからは間違いなく犬派だ。
 
「私は猫。家の中で飼うの夢だったんだ」
 
 こういう小さい部屋で飼えるコ、とページの中の一匹を指で指し示す。まん丸い吊り目の、毛足の長い小型の猫は確かに可愛い。だが、なまえの夢である程とは思ってもみなかった。
 
「…………」
「何、どうかした?」
 
 突如として沈黙した自分に、彼女は手を伸ばした。まるで猫にするかのように、顎を指先で擽ってくる。
 
「家にはハロがいる」
「知ってるよ?」
 
 言わずと知れた我が家の愛犬を、彼女も勿論知っている。留守中の面倒を頼むこともあるし、何ならハロと彼女の仲はかなり良いのだ。白くてふわふわで、賢くて、愛嬌が良い彼は、猫とは違うが引けは取らない。
 
「猫と犬だと、喧嘩しないか?」
「そんな一緒に暮らす訳じゃないんだから…………え?」
 
 声を上げて笑い飛ばした彼女は、ぱちりと目が合った瞬間に表情を歪ませた。自分は今、多分真顔になっている。
 
「えっ? えっ!?」
 
 自分達の会話を反芻しながら、壊れた機械のように何度も呟いている。なまえの表情が、そういうことなの!?と訴えている。勿論、そういうことだ。
 
 どうやら、まだ余裕がないらしい彼女を置いて立ち上がった。仕切り直しにコーヒーでも淹れようとキッチンに向かう。
 
「降谷さん!?」
 
 後ろから掛けられた声に、振り向く。驚きと、焦りと、冗談にした彼女自身の後悔が透けて見えた。
 
「――君のその鈍さには、ほとほと呆れる」
 
 胡乱な目付きで彼女を見やると、しょんぼりと項垂れている。まだ自分達には早かっただけの話で、実際にはそこまで気にはしていない。ただ少しばかり、当てこすってやりたかっただけだ。
 
「コーヒーに、砂糖とミルクは?」
 
 見えるつむじがいじましくて、つい苦笑が禁じ得ない。喉の奥で噛み殺したつもりが、彼女には聞こえていたらしい。
 
「いつも通りでお願いします……」
 
 ゆっくり上がった顔は不満そうに、自分を緩く睨み付けていた。